「週刊文春」編集局長・新谷 学
× 作家・山内マリコ

対談「“めんどくさい男”を考える」

Photo / Masahiro Heguri Text / Hiroyuki Konya (discot)

Manabu Shintani × Mariko Yamauchi
新谷 学
山内マリコ

新谷 学

1964年生まれ、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。1989年に文藝春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。2018年より週刊文春編集局の局長に就任。

山内マリコ

1980年生まれ、富山県出身。大阪芸術大学映像学科卒業。京都でライターとして活動の後、東京に移り、2008年に「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。2012年、単行本『ここは退屈迎えて来て』で作家デビュー。3月に新刊の美術エッセイ『山内マリコの美術館は一人で行く派展』が刊行予定。

めんどくさい男には
「責任」と「覚悟」がある。

山内
ご自分のことを〝めんどくさい男”だと思います?
新谷
立場的に面倒くさい男だと思われるかもしれないけど、わかりやすい人間だと思いますよ。「スクープとれ! いけー!」と言ってるばかりなので。裏表のある、策略を巡らすタイプではないです。ただ、仕事について言うなら、こだわりは強いほうかなぁ。
山内
あの〝文春”の編集長を6年も務めるなんて、かなり強度のある芯を求められますよね。自分の中に法みたいなものが必要かと。スタンスを聞かせて下さい。
新谷
ちょっとだけ真面目な話になっちゃうけど、大丈夫かな? (と、取材班に確認をとる新谷さん)。この対談では「愛すべき、面倒くさい男」の輪郭を浮き彫りにできたら……と思ってました。最初から僕の話なんかでいいの?
山内
新谷さんに愛すべき要素があるのか気になりますね(笑)。
新谷
いちばんのこだわりは、自分たちが作る記事に「責任」と「覚悟」を持つこと。抗議を受けたり、炎上したり批判されることもなくはないけれど、常に心がけているのは、批判や反論があったとき、なぜ文春が報じたのか、世の中に胸を張って示せるかどうか。逆に言うと、自分たちの信念を曲げてまで記事を出すことはありません。
山内
それってきっと、魂を安売りしない、ということでしょうかね。きれいなだけの仕事ではない分、その矜持は大事ですよね。新谷 週刊誌を作る面白さは、マニュアルでは全くやっていけないところ。根っこの信念の部分でブレちゃいけないと思う反面、編集長だった頃はブレることも大事だとも思ってました。目の前の状況は刻々と変わっていきますから。例えば朝、「大事件だ!北海道に行け」と命じた記者に、昼には「もっと大きな事件が起きたから沖縄に行け」と指示し直すようなことは日常茶飯事。週刊文春は究極の朝令暮改メディアでもあるわけです。
山内
新谷さんのモチベーションって何でしょう?
新谷
人間って面白いじゃないですか。いい人でも邪悪なところがちょっとあったり、ずるい部分、卑怯な部分があったりする。そういった人間の面白さをあくまで温かい眼差しで伝えたいと思っています。人間として決してホメられないことをした相手だとしても「断罪しろ」「島流しだ」みたいなことは一切考えていません。
山内
「けしからん!」みたいな、鉄槌を下しているわけではないんですね。人間を面白がるっていう意味では、文藝春秋創業者の小説家、菊池 寛イズムを感じます(笑)。
新谷
仕事柄、スクープのネタ元や告発者など、一筋縄ではいかない取材対象者と長い時間をかけて関係を深めていくことが多いので、鍛えられたのかな。思い返すと、愛すべき面倒くさい人とこれまで多く出会ってきたなぁ。
面倒くさい人だからこそ、奥深く付き合える。

面倒くさい人だからこそ、
奥深く付き合える。

めんどくさい男には
「学び」がある。

新谷
面倒くさい男をどう評価すべきか。実はすごく難しいお題な気がしていて。
山内
面倒くさいという言葉が性格を表すのに使われるようになったのって、ここ10年ですよね。意味的には、付き合いにくいとかかな。
新谷
山内さんが今までに出会った男性で、面倒くさいけど好感が持てた人は?
山内
身近なところでいうと、夫。面倒くさい男です(笑)。
新谷
旦那さんのどこが面倒くさいんですか?
山内
それこそ、ファッションにもこだわるタイプの人なので、一緒にいると私が着ている服についてもすごく言ってきます。
新谷
ダメ出しとか?
山内
今日も私のコーディネートについて、最初シャツの裾を出して着てたら「入れたほうがよくない?」と。
新谷
圧倒的に今はインが気分ですよね(笑)。確かに、面倒くさいタイプではありそう。
山内
ただ私の場合、こだわりのある人のほうが飽きずに長く付き合えますね。若い頃は2年ぐらい男性と付き合うと、もう相手を知り尽くしたと思って、気持ちがフェードアウトしてました。その点、夫とは10年以上の付き合いですが、面倒くささが奥深いから飽きがこない。
新谷
面倒くさい相手と自分の面倒くささをすり合わせて相乗効果を楽しんでるのかな?
山内
まさに! 何度も喧嘩してすり合わせて、だんだんうまく調和してきてるなっていう実感はあります。自分の面倒くささに気づいたり。
新谷
面倒くささのツボが合うのかもしれない。
山内
新谷さんがこれまで出会ってきた「愛すべき、面倒くさい人」は?
新谷
「この人、面倒くさいけど格好よかったな」と印象的なのは菅原文太さん。月刊「文藝春秋」にいた頃、膀胱がんになったというニュースを聞き、「膀胱がんとの仁義なき戦い」というタイトルで手記を書いてもらおうと、手紙を書いた。で、お電話したら、「何言ってんだ、お前は。今は二人に一人ががんになる時代だ。がんになったぐらいで人生観が変わってたまるか!」と怒られて。
山内
お~格好いい。
新谷
続けて、「ただ俺の経験が膀胱がんで苦しんでいる人に、少しでも役に立つんだったら、出てもいいよ」と。誌面に出る条件は主治医2人と文太さんによる鼎談。役立つ情報をきちんと喋りたいと。「この人、すごく格好いいな」と思いました。
山内
ちょっと白洲次郎みたいなプリンシプルを感じますね。
新谷
面倒くさいけど、ものすごく筋が通っていて。昭和の名優って気骨がある人が多い気がするなぁ。
山内
レベルが違いますね。面倒くさいというより、人間の格が高い! ほかにはどんな方が?
新谷
山崎努さんも格好よかった。食事をご一緒したとき、ある大監督の名をあげたら、「あいつは偽善者だよ」と一刀両断。別の監督の話をすると「あいつは本物だ」と。人気があるものや売れているものが「正しい」という価値観を持たず、本物か偽物か、そこに判断基準を持っている方です。どんな球を投げれば「こいつ、わかってるな」となるのか、配球を間違えると関係が終わってしまう緊張感には毎度シビれますが、こうしたやりとりの中で鍛えてもらっているのも事実です。
山内
そういう「人間の目利き」みたいな方と接していると、「自分も本物になりたい!」と思いますよね。自分の面倒くささを周りの人に甘受してもらおうとするんじゃなくて、成長しなきゃと思える。わたしもいずれは本物になりたいです。
新谷
書きたいテーマを突き詰め、既に出来上がっている物語の型に踏み入らず、女性にしか作れない物語世界を模索する山内さんの姿勢、素晴らしいと思います。それはすなわち、魂を売らないということですから。
山内
そう言っていただけると、励みになります。
新谷
さて、この対談をどうまとめましょうか。
山内
面倒くさい男…… 面倒くささに濃淡はあれど、“愛すべき”面倒くさい男性には、取り巻く人を前向きにさせる魅力がある気がします。人間っていいなぁ〜と思わせるような。「人間って面白いじゃないですか」と真正面から言える新谷さんも、なかなか“愛すべき”人かと!
新谷
ありがとうございます( 笑)。「めんどくさい男から新たに学ぶ」ことが大事ですね。

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