THE TRANSITION

オリジナルの変遷、
こだわりが紡ぐ歴史。

ビームスのオリジナルアイテムは、無類の洋服好きたちの「欲しい!」を徹底的に詰め込んだこだわりの結晶ともいえるもの。
今回はその歴史を紐解いていきたいと思います。

Photo / Osami Watanabe(Sammy Studio) Styling / Akihiro Shikata

空前のアメカジブームの担い手として、ビームスは1976年に創業しました。当時は輸入代理店なども少なく、西海岸の大学生協へバイヤーが直接買い付けに行くような時代。当然、商品が売り切れたら簡単には補充できません。ならば、本物に負けない品質のスウェットやチノパンを自分たちで作ろう。こうして始まったのがビームスのオリジナルアイテムです。通常、セレクトショップのオリジナルには、どうしてもインポート品の廉価版というイメージがつきもの。しかしながら、私たちのオリジナルにその概念は当てはまりません。なぜなら根幹にあるのは“欲しいものがないなら、納得いくものを自分たちで作る”という姿勢だから。それはビームスFにも40年以上にわたって受け継がれ、私たちのものづくりの礎となってきたのです。

次世代に求められる
新時代のオリジナルとは?

今シーズンとともに始まったばかりである2020 年代。これからの時代のクラシックスタイルは、ひと言で表すと世代交代と嗜好性の時代になると思います。ブランドやファクトリー、バイヤー、サプライヤーなど、すべての関係者が新しい世代へと代替わりしつつあります。実は2010 年代のクラシック回帰の流れも、そうした新世代が若い感覚によって再発見したという側面もあったのです。彼らは国柄や時代背景にとらわれることなく、過去のアーカイブを紐解きながらさまざまなアイテムを自由にミックスします。オリジナルアイテムにもそんな新時代のミックススタイルに呼応した、新しい感覚が問われているのです。それは国柄や時代を超越したインターナショナルスタイルであり、真にグローバル化したクラシック。より自由に着こなせるセットアップスーツや、ひと昔前には考えられなかったウエストドローコード付きのスーツの人気は、新しいクラシックの象徴ともいえるでしょう。これまで築き上げてきた歴史を俯瞰しつつ、現代に合ったものを選び出し、時代性を加味した提案が求められます。さらにスーツやジャケットをビジネスウェアではなく、ファッションとして捉える昨今の流れを鑑みると、オリジナルにもより嗜好性の強いものづくりが求められるはず。だからこそ、これからも40 年以上のノウハウを生かして、オリジナルのクオリティに徹底してこだわり続けたいと思います。

次世代に求められる新時代のオリジナルとは?
次世代に求められる新時代のオリジナルとは?
次世代に求められる新時代のオリジナルとは?

あくまで本物を求めた
オリジナルの黎明期

1976 年に創業し、当時大流行した米国西海岸発のアメリカンライフスタイルの火付け役となったビームス。やがてそのブームは東海岸発のトラディショナルスタイルへと変化します。そんなクラシックスタイルを発信する初のレーベルとして、ビームス F は1978 年に誕生しました。オリジナルアイテムも当初から展開していましたが、80 年代に入るとアメリカのトラディショナルの源流である英国のテイストが求められるようになり、英国製の本格ツイードを用いたジャケットや英国の人気セレクトショップ店員がこぞってスーツに羽織っていたトラディショナルなマウンテンパーカなどをラインナップ。アメリカントラッドやブリティッシュトラッド、そして80 年代中頃から注目され始めたフレンチアイビーを追求すべく、国内だけでなく、当時まだ隆盛を誇っていたアメリカや英国の工場で生産していましたが、その頃はメーカーとの直接的なルートはまだ未開拓であり、中間業者を介してのオーダーがメインでした。やがて、当時世界最大のメンズファッション見本市だったフランス・パリの「SEM」などで交流を深め、80 年代中頃から末にはビームスがパリとロンドンにオフィスを構えたことも相まって、欧米メーカーや工場とのコネクションを着々と構築。80 年代後半には現地に担当者が足を運び、オリジナルの生産を模索し始めるのです。日本の優良なファクトリーとものづくりを行い始めたのも80 年代になります。

パリの「オールドイングランド」は現代にも通じるフレンチアイビーのお手本(1987年)。紳士靴をはじめ、世界中の名品を教えてくれたパリの名店「マルセル ラサンス」( 1989年)。
下/紳士靴をはじめ、世界中の名品を教えてくれたパリの名店「マルセル ラサンス」( 1989年)。上/パリの「オールドイングランド」は現代にも通じるフレンチアイビーのお手本(1987年)。
あくまで本物を求めたオリジナルの黎明期
あくまで本物を求めたオリジナルの黎明期
あくまで本物を求めたオリジナルの黎明期

英国からイタリアへ
ものづくりとスタイルが変化

1980 年代を経て、クラシックスタイルの基調となっていたブリティッシュテイスト。サヴィルローから生まれた伝統的な英国スーツを誇張した、「ニューテーラー」と呼ばれる英国ブランドの台頭もあり、90 年代に入るとブリティッシュはクラシックからモードまでを席巻する一大トレンドとなります。スランテッドのチェンジポケットやインプリーツ、サイドアジャスターなど、オリジナルのスーツ&ジャケットも英国的なディテールを導入。ブラックウォッチ柄のオイルドクロスコートやシェットランドセーターといった英国アイテムを、現地のファクトリーで生産しました。その潮目が変わったのは90 年代中頃。英国の服飾産業の不振により、現地でのものづくりが難しくなってきたのです。そこで新たに着目したのが、家族経営が中心で最小ロットが少なく、技術力があって工賃も手頃なイタリアの工場。ハイクオリティなものをより自由に、必要な分だけ、そしてリーズナブルに作れたほうが、お客様にとっても絶対にいい。そんな思いからの決断でした。しかしながら、当初は服に色気があるナポリなどの南イタリアではなく、英国の影響が強くかっちりとした服が得意な北イタリアのファクトリーを中心に、英国的なアイテムを作っていました。時は折しも、イタリアンクラシックが脚光を浴び始めた時代。ビームスは流行ではなく、あくまでものづくりの視点から入ることで、イタリアの本質をより深く知ることができたのです。

日本でも大人気だったニューテーラーの旗手である「リチャード ジェームス」( 1998年)。ロンドンの「コーディングス」は正統派ブリティッシュスタイルを受け継ぐ老舗(1991年)。
上/日本でも大人気だったニューテーラーの旗手である「リチャード ジェームス」( 1998年)。下/ロンドンの「コーディングス」は正統派ブリティッシュスタイルを受け継ぐ老舗(1991年)。
英国からイタリアへものづくりとスタイルが変化
英国からイタリアへものづくりとスタイルが変化
英国からイタリアへものづくりとスタイルが変化
英国からイタリアへものづくりとスタイルが変化
英国からイタリアへものづくりとスタイルが変化
英国からイタリアへものづくりとスタイルが変化
英国からイタリアへものづくりとスタイルが変化
英国からイタリアへものづくりとスタイルが変化
英国からイタリアへものづくりとスタイルが変化

イタリアンクラシックの隆盛と
カジュアル化の大きな波

2000 年代に入ると、イタリアンクラシックの潮流は日本だけではなく世界中に広まります。その影響が最も大きな変化として表れたのがスーツやジャケットの仕立てであり、オリジナルも肩パッドがどんどん薄くなって最後にはなくなりました。そうしたイタリアならではのテーラーリングを貪欲に吸収していたのが、当時注目度が高まっていた日本の工場です。90年代後半のイタリアンクラシックブームが始まった頃より積極的に現地で技術を学び、2000 年代前半にはそれが実を結んでクオリティが飛躍的に向上。ビームスもそんな日本のテーラーリングファクトリーと切磋琢磨しながら、オリジナルを生産するようになります。また2000 年代も中盤になると、クラシックスタイルの大きな変化が再びイタリアより訪れます。洗いをかけた一枚仕立てや製品染めでこなれた雰囲気を演出したジャケットがイタリアから上陸し、瞬く間に大ヒットしたのです。それはテーラードのカジュアル化の始まりでした。イタリアンクラシックというそれまでのルールを覆し、より自由なスタイルと着こなしをもたらしたのです。オリジナルのスーツ&ジャケットも、T シャツやスニーカーが合うコンパクトなシルエットとこなれた表情が主流に。その大きな流れは、やがてショート丈のコートやスエードのスリッポンシューズなど、さまざまなアイテムに派生します。より軽やかで快適に、そしてスポーティで自由に。カジュアル化の波が、ドレスコードに大変革をもたらしたのです。

迫り上げたタイのディスプレーがいかにもイタリアンクラシックな「ドリアーニ」(2002年)。ミラノの「ジャンニ カンパーニャ」はイタリアンクラシックの王道を行く名サルト(2003年)。
上/迫り上げたタイのディスプレーがいかにもイタリアンクラシックな「ドリアーニ」(2002年)。下/ミラノの「ジャンニ カンパーニャ」はイタリアンクラシックの王道を行く名サルト(2003年)。
イタリアンクラシックの隆盛とカジュアル化の大きな波
イタリアンクラシックの隆盛とカジュアル化の大きな波
イタリアンクラシックの隆盛とカジュアル化の大きな波
イタリアンクラシックの隆盛とカジュアル化の大きな波
イタリアンクラシックの隆盛とカジュアル化の大きな波

イタリアにも影響を与える
日本が提案するオリジナル

クラシックスタイルのカジュアル化は、2010 年代に入っても続きます。ウォッシュ加工や製品染めに続き、ジャージーや化学繊維などのスポーティな素材を用いたスーツ&ジャケットが登場。シャンブレーシャツやポロシャツを合わせたコーディネートも当たり前に。こうしてルールや決まりごとが希薄になったことで、以前よりも問われるようになったのがセンスと感性です。アイテムだけではなく、ファッションリーダーたちの動向や時代の雰囲気を見据える、審美眼と考察力が求められるようになりました。そこで活きてきたのが、私たち日本人の研究熱心さや観察力。保守的なイタリアのブランドや工場が、それまでとは逆にそんな私たちのオーダーするオリジナルを模倣することが増えたのもこの頃です。こうした逆転現象までもたらしたカジュアル化も、10 年代後半になるとファッションにはつきものの揺り戻しが起こります。行きすぎたカジュアル化に反発し、クラシック回帰が叫ばれ始めたのです。オリジナルでもチェンジポケットやサイドアジャスター付きのサルトリアルなスーツ&ジャケットに加え、ヘリンボーンのダッフルコートなどクラシックなアイテムを提案。ただし、それらは90年代のブリティッシュスタイルの焼き直しではありません。構築的に見えつつも芯地類を極限まで抑えることで着心地は軽やかであり、往年の雰囲気を放ちつつもシルエットのバランスで現代的に見えるなど、モダンにアップデートしていたのです。

イタリアにも影響を与える日本が提案するオリジナル
イタリアにも影響を与える日本が提案するオリジナル
イタリアにも影響を与える日本が提案するオリジナル
イタリアにも影響を与える日本が提案するオリジナル
イタリアにも影響を与える日本が提案するオリジナル
イタリアにも影響を与える日本が提案するオリジナル

SHARE THIS CONTENTS

Facebook

Twitter

MORE CONTENTS

  • LARDINI
  • GTA
  • TAGLIATORE
  • De Petrillo
  • PT
  • HEVO
  • JOHN SMEDLEY
  • Whitehouse Cox
  • giab’s ARCHIVIO
  • cinquanta
  • GRAN SASSO
  • GRENFELL
  • INCOTEX 1951
  • THE GIGI
  • WOOLRICH
  • BUNNEY
  • EMMETI
  • drakes
  • Felisi
  • INVERTERE
  • T-jacket
  • maria santangelo
  • Tito Allegretto
  • BrooksBrothers
  • Toff&Loadstone
  • VEILANCE
  • Seaward&Stearn
  • PELLE MORBIDA