誰よりも美味しい、
めんどくさい食べ方、教えます。

「dancyu」名物編集長が毎日実践!

「隣のお客さんより美味しく、楽しく食べたい!」
同じ店で同じ料理を注文しても、「それができる」と話すのは、
全国の食いしん坊に、食の新しい体験を提案する「dancyu」の編集長。
植野さん、誰よりも美味しく食べる秘訣、教えてください。

Illustration / Takashi Kuwahara Interview & Writing / Hiroyuki Konya (Discot)

料理は佇まいを愛でるところから始まる。

Mendokusai way of eating 01

料理は佇まいを
愛でるところから始まる。

テーブルに料理が並び始めたら、最初に一皿ずつ、料理の佇まいを愛でるところから始めたい。例えばポテトサラダ。「このポテサラ、北壁が少し崩れている。直登したら危険」などと思いながら、「このハムは避け、キュウリのあたりから登っていこう」といった登山ルートをシミュレーション。装備は箸か、この形状ならスプーンか、フォークを使ったほうがいいか。登山家が山と対峙したとき、どこから登ればいいかわかるように、「食を楽しみたい!」という気持ちの強い“食いしん坊”な人であればあるほど、料理を見ただけでいちばん美味しい食べ方にたどり着けます。僕もそう。食いしん坊とは、3万円のフレンチも300円の立ち食いそばも同じように楽しめる人のこと。星の数や点数にとらわれず、高級もB級もなく楽しめる“食いしん坊”には、美味しい時間が待っています。

食べ方を変え、皿でいくつもの味を楽しむ。

Mendokusai way of eating 02

食べ方を変え、
皿でいくつもの味を楽しむ。

同じ料理でも、食べ方によって味わいは変わるもの。例えばナポリタン。僕はナポリタンが運ばれてくると、まず形状と状態をチェックし、パスタと具の混ざり方を見て、最適な食べ方を判断します。パスタだけ食べ、味わいを確かめたら、タバスコや粉チーズが必要か、必要だとするといちばん美味しく食べるためにはどうすべきか、考えます。口の中に粉チーズの味が広がってしまうので、ナポリタンにそのまま粉チーズはかけません。フォークに粉チーズをふり、パスタを巻いて食べると、最初にナポリタンの味、後から粉チーズの味が追いかけてきます。タバスコも同じく。ほかにも粉チーズダブル、パスタをフォークで巻いてから粉チーズやタバスコをふって食べるなど、一皿でいくつもの味わいを楽しみます。勘がいい人なら、さまざまな料理に応用できるってわかりますよね?

注文は自己紹介。熱量を込め、店に想いを伝える。

Mendokusai way of eating 03

注文は自己紹介。
熱量を込め、店に想いを伝える。

注文はお店の人との貴重な対話の時間。「美味しいものを食べたい!」という店に対するアピール、ラブコールの場です。いま自分がどんなものを食べたいのか、例えばそれが肉なら、「肉が食べたくてしょうがない。肉なら何でも好き。おすすめは何ですかね?」と話す。メニューを見て「生姜焼き、お願いします」と頼むより、いま肉を食べたくてしょうがない人と認識してもらい、生姜焼きを作ってもらったほうが作り手の想いは料理に入るものです。大衆店であれ高級店であれ、想いは伝えれば伝えるほど、伝わるもの。僕も食べたいものを素直に伝えるようにしています

温度差を作り、熱いものと冷たいものを混在させる

Mendokusai way of eating 04

温度差を作り、熱いものと
冷たいものを混在させる

熱いものは熱く、冷たいものは冷たいうちに食べるのが美味しさのセオリーと言われますが、もちろんこの考え方も正解。料理人も出来たてを食べてほしいと思い、料理と向き合っているので。でも実は、この考え方を超越する美味しさの世界があります。それは、熱いものと冷たいものを混在させ、口の中に温度差を作ること。味わいに複雑性が出て、香りもたちます。例えば牛丼。僕は𠮷 野家に行くと、牛丼のアタマ大盛り、ご飯少なめ、生野菜(胡麻ドレッシング)を注文します。まずは牛丼に生野菜サラダをのせ、適度に混在させ、牛肉3 :サラダ2の割合で口に運びます。二口目は肉の下に紅ショウガを入れ、包むようにしてご飯、紅ショウガ、牛肉、サラダの層を作り、口の中へ。熱い牛肉と冷たいサラダは一緒に広がり、食感がより鮮烈に。新たな味わいが生まれるんです。

同じ料理でも味は変わる。その変化に気づき、楽しむ。

Mendokusai way of eating 05

同じ料理でも味は変わる。
その変化に気づき、楽しむ。

変化に気づくこと。僕は“食の面白さ”はこんなところにもあると思います。例えばラーメン。その日の麺、スープの状態、気温や湿度、料理人の体調など、同じお店の同じ作り手が同じ材料で同じラーメンを作っても、味は毎日、微妙に変わります。必ず変わります。作り手に対するリスペクトがあるなら、ラーメンに限らず、テーブルに出てきた料理すべて、味見せずに調味料や薬味をドサッとかけるのは絶対やめるべき。声を大にして言いたい。最初のひと口は何もかけずに食べた後、ベースの味を崩すことなく、調味料や薬味のバリエーションで、自分好みの味にしていくのがいいと思います。美味しいというのは、技術が優れているということだけでなく、時を積み重ねることによって初めて生まれる味わいもあると思います。そうした「継続の力」もきちんと受け止めるようにしてほしいと思います。

どう食べ進めるか。最初に、フィニッシュを決めておく。

Mendokusai way of eating 06

どう食べ進めるか。
最初に、フィニッシュを決めておく。

食べ始めに、最後はどのように食べ終えるか決めておく。これも、美味しく食べるための大切なルールです。言葉を変えるなら、印象と余韻をよくするためのベストな選択肢を探しておく。ここを間違うと、料理の印象はガラッ変わります。基本はメインの味わいで始まり、メインの味わいで終えたい。例えばハンバーグやステーキ。ジャガイモなどの付け合わせは、最後食べず、最後のひと口は肉で〆る。ハンバーガーなら、バンズだけが残るような事態は避けたいので、最後のひと口はパティ、野菜、バンズがバラスよく残るよう、食べ進めていきます。カレーを食べるときは、最後のひと口がカレーとご飯の最高なバランスになるよう、注意を払っています。「大げさじゃないですか?」と言われるし、思われるかもしれませんが、僕は本気です。めんどくさい男ですみません(笑)。

植野広生
1962年、栃木県生まれ。「dancyu」編集長。大学卒業後、新聞記者を経て、出版社で経済誌の編集を担当。その傍ら、大石勝太(おおいし・かった。「おいしかった」)のペンネームで「dancyu」「週刊文春」などで食の記事を手がける。2001年、プレジデント社に入社。以来「dancyu」の編集を担当し、現職。食と音楽のイベントを手がけるなど、幅広く活動中。https://dancyu.jp

SHARE THIS CONTENTS

Facebook

Twitter

MORE CONTENTS

  • LARDINI
  • GTA
  • TAGLIATORE
  • De Petrillo
  • PT
  • HEVO
  • JOHN SMEDLEY
  • Whitehouse Cox
  • giab’s ARCHIVIO
  • cinquanta
  • GRAN SASSO
  • GRENFELL
  • INCOTEX 1951
  • THE GIGI
  • WOOLRICH
  • BUNNEY
  • EMMETI
  • drakes
  • Felisi
  • INVERTERE
  • T-jacket
  • maria santangelo
  • Tito Allegretto
  • BrooksBrothers
  • Toff&Loadstone
  • VEILANCE
  • Seaward&Stearn
  • PELLE MORBIDA